AVANTIとは〜サントリー・サタデー・ウェイティング・バーについて〜


8/18追記:2013年も麻布十番祭りAVANTIが出店するそうです。番組が終わってもレストランは存続し続けるという設定で最終回は幕を下ろしましたが、その設定に忠実に今年も出店されるそうです。もはやこれはラジオ界の伝説ですね。
ツイッター @ayako_yanagida さんによると概要は以下の通りです。
『今年も来週末24日、25日の麻布十番祭りで #AVANTI の出店をやることになりました。場所は去年と同じところです。ハイボールと缶詰めのおつまみとゲームで皆さまのご来店をお待ちいたします。合言葉、うーん、どうしようかな。』
相変わらず私はタイにいるのでいけませんが、どんな感じだったのか、教えて下さいね。


そして!もう一つ。あの教授によく似た団しんやさんのWebに耳寄りなお知らせが・・・!。是非ご確認を。
団しん也 オフィシャルサイト



■最終回のAVANTI
3月30日の放送で21年間続いたFM東京の番組、AVANTIが最終回を迎えました。
最終回はテーマが『イカ』。長年バーに立ち続けていたスタンが実家の牧場を継ぐために先週店を辞め、
今週は新しいバーテンダーのアンジェロがやって来て、音声もアンジェロのものになりました。
そうして、新しいAVANTIが始まることを予感させながら、番組はいつも通りの構成で終わりました。


正直、最後のテーマは『あるラジオ番組』として、AVANTIを振り返る人物がやってきてその話に
聞き耳を立てる、という構成もあったはずだけど、そういう事もせず、あくまでもAVANTIはこれからも
存在し続けるというなんとも格好いい演出でした。


最終回は東京ミッドタウンでパブリックリスニングというイベントも開かれ、
大勢のリスナーから惜しまれながら、このFM史上に残る番組が終わってしまいました。
今回はAVANTIのことを1ファンの立場から書いておきたいと思います。


■私とAVANTI
番組は小学生の頃から聞いていて、良く分からないながらも大人でお洒落だなあと思っていました。
こういう人は多いのではないでしょうか。その後、年を重ねるごとに聴く場所も変わっていくのがAVANTIの特徴。
大学の頃は友人たちと車の中で聴き、沖縄時代は土曜日の夕日を観ながらこのラジオを聞くのが最高に幸せな時間でした。


番組の始まる土曜の5時からというのが、土曜夜、そして日曜へと続くワクワク感を一番感じられる
時間だったからこそ成功したのでは??
これが日曜の5時だと寂しさもあってまた違う感覚になっていたのではないでしょうか。
また自分が生まれたのが元麻布にほど近い南麻布だったということもあり、超薄いけど親近感、地元感がありました。


AVANTIについて
さてそんなAVANTIですが、正式な番組名は『サントリー・サタデー・ウェイティング・バー』で、
1992年に博報堂企画、ホイチョイプロダクション制作で始まったといわれてます。
この『いわれている』というのは後述するこの番組の持つ高い作り込み性により、
本当にこのバーが存在するんじゃ無いか、という効果を狙うため、
外部には番組のことが殆ど出ておらず、未だに曖昧なところが多いのです。


番組は時期によっても違いますが、教授と呼ばれる男性の靴音と共に
「東京は元麻布、仙台坂を上った辺り・・・」
「着きましたよ、ここがAVANTIです。私が扉をお開けましょう。」
という語りから番組が始まり、木の扉を開けるSEが聞こえると、
シェイカーを振る音や氷がグラスに当たる音など魅力的なバーの音が一気に溢れてきます。


同時に片言の日本語でバーテンダーが「イラッシャイマセ」と迎え、
教授が飲み物を注文すると「カシコマリマシタ」といって、
グラスにお酒を注ぐ音が入り、番組名がナレーションされます。


冒頭のこのシーンは毎回非常に作り込まれており、
まさに聞いている我々がバーの中に入っていく様に感じられる演出がされていました。


その後、バーに来た人たちの話を聞き耳するという形で毎回テーマに沿ったトークが繰り広げられます。
トークの合間には50〜60年代のジャズヴォーカルが流れます。
最後に「イッテラッシャイませ」とバーテンダーに送られて教授が扉を開けると、
車の音やノイズが聞こえて外に出たような雰囲気になり、提供クレジット、エンディングとなります。


AVANTIの作り込み
こうして書いてみて感じるのは、他にあまりない非常に特異な番組だということ。
番組それ自体の説明がなく、番組をメタ的に振り返ることは今の今まで一切無いという作り方。
あくまでも実在する店舗のバーで聞き耳をたてているんだという作り。
これらの作り込みによって、リスナーはあたかも元麻布にこのお店が実在しているように
思い込んでしまうのです。


私も以前、友人からこのお店は実在するのかと尋ねられたことがあるし、
実際に仙台坂でお店を探してしまったという話は良く聞きます。


またこの架空のレストランを作る上で大いに参考にしたと思われるのが
1960年代の文化発信地であるイタリアンレストラン、キャンティです。
キャンティは1960年に開業したレストランで六本木近くの飯倉にあり、
当時時代の先端を走っていた人たちが通った東京一イケてたレストランです。


これと対を成すようにもうちょっと落ち着いたレストランAVANTIが元麻布にあるという設定が絶妙!
元々進駐軍の将校クラブだったのを改装したというのもいかにもありそう!と思わされました。


しかも年に1回だけ、麻布十番祭りAVANTIとして屋台を出して、
本当に現実でのコミュニケーションまでしているのです。
ここまでリスナーのために作り込んで真面目に面白いことをしている番組はないのでは?


また、この出店の時に合い言葉をいうとAVANTIからクリスマスカードが届くというしかけもありました。
私も一度だけここに行けたんだけど、ちょうどその年からタイに来る予定だったので、
タイの住所を書いておいたんです。そしたらきちんとタイまでクリスマスカードを届けてくれたのです。
その消印はなんと元麻布局。FM東京半蔵門にあるのにここまでするのか!と心の底からびっくりしました。


ただし、番組自体からほんのちょっとバブルの残渣というようなお高くとまった感じが少しだけ感じられて、
これらがスノッブが過ぎるとしてよく思っていなかったリスナーもたぶんいるはず。
途中に挟まれるお店の雰囲気とまるきり違う寸劇についても、違和感を感じている人が居たかもしれない。


そう思えてしまう部分を含めて(元々ホイチョイプロダクションは気まぐれコンセプト
東京いい店やれる店などケーハクな題材を上手に提供することを得意としているので、
どうしても出ちゃうのかもしれない)、しゃれたジャズボーカルと圧倒的な作り込みから来る
大人な雰囲気が土曜の午後5時という特別な時間帯で輝いていた気がします。
また、この架空のお店を実在するかのように思わせられるのは音だけのメディア、
ラジオの特性であり、ちょっとの空想だけで信じられる夢があった点で完璧なラジオ番組だったと思います。


■THANK YOU AVANTI
実際の制作に関しては全くの想像ですが、ゲストとの会話をそれぞれかなり長く録り、
その中から面白いと思える部分を抜き出して使っているだろうから、毎回4〜5人のゲストが
「来店」していたことを考えるとずいぶん苦労されたんじゃ無いかと思います。
またテーマやブッキングされるゲストも毎回時代に即した選び方で、
こうしたリサーチについてもよくぞ・・・と思わざるを得ません。
あの今では有名になったエルブジも私はAVANTIで初めて知りました。情報の鮮度、聴かせ方がとっても良かった。


21年も続いているわけでフォロワー番組が生まれているかと思いますが、ちょっと思いつかない。
それだけこの番組の完成度と構成が秀逸で、真似したくても難しいのでしょう。


終わってしまうことは非常に残念ですが、21年もこうした番組を続けるというのは大変な作業だったと思います。
型がきっちりと出来てしまっているから大きく崩せないし、
新しいことをしたくても許されないという環境で、この様式美を頑なに最終回まで守り通したスタッフの方々へ
お疲れさまと伝えたいです。


このスタッフでの今後の新番組に期待したいですね。来週から始まる番組も長く続くことを祈って。


最後に最終回イベントの様子を撮影された方がYOUTUBEにUPしてくれていますので、
コレを見ながらお別れしましょう。それではまた今後。