幌延深地層研究センター ゆめ地創館 - 日本原子力研究開発機構
今回は6月の北海道旅、大きな目的の一つだった幌延訪問です。
2002年頃から毎年核関連施設の見学を行っていますが、今年は地層処分の施設です。
北海道の殆ど最北、つまり日本のてっぺん近くの幌延町は人より牛の方が5倍いる酪農の町です。
そんな幌延町に核関連施設があるのをご存じでしょうか。
原子力発電などで出る高レベル放射性廃棄物の処理は基本的に深いところに埋める地層処分が考えられています。どこかに長期間隔離しなければ安全なレベルに放射線量が落ちないためです。
その地層処分について研究しているのがここ幌延深地層研究センターです。つまり発電技術はいいとして、後始末をどうするか?の技術は確立されてもおらず、まだ研究されて間もない段階なワケです。
現在、大飯を除いて全国で稼働が停止している原子力発電所。仮に全て廃炉にするにしても更地化するためには1基あたり30年という時間と1000億円規模の予算が必要といわれています。事故を起こして燃料が散乱しているとみられる福島第一原発は廃炉出来るのかすら全く分からない状態ですので、それ以上の時間と予算が必要でしょう。そもそも日本の商用原子力発電所で廃炉が完了した炉はまだ一つもありません。世界に目を向けても廃炉がスムーズにいっている例はなく、時間と膨大な金がかかっています。
仮に廃炉しなかった場合でも高レベル放射性廃棄物は出続けます。つまりこの施設は原子力発電を続けるにしても止めるにしても必要な技術を研究する施設なのです。「なぜ、作る時に壊す時のこと考えなかったの?捨てる場所考えてから作れよ」という単純な疑問が生まれると思います。これは「わかっちゃいるけどやめられない」という、人間の真理の通りです。これは原発を止める決断をしたドイツでも同じ事がいわれております。現在原子力を利用している41カ国中、こうした高レベル核燃料の最終処分場が決まっている国はフィンランドただ1国だけです。
では日本国内に高レベル放射性廃棄物を捨てられるところ、ありますかね?
でも決めなければ決断を後に先送りするだけです。
ここ幌延の研究所では地層処分の研究はするけれどもホンモノの処分場にすることはない、という条件で施設が建設されました。本当でしょうか。そもそもなぜ研究所を幌延に作ったのでしょうか。では実際にこの施設を見ていきましょう。少し、ここに研究所が作られた意味が見えるかもしれません。
施設は観光トナカイ牧場の前にあります。トナカイは角がもふもふしててかなり可愛いです。
こちらかなりファニーなキャラが書かれていますが、れっきとした核関連施設です。
研究所の実際の作業は現在縦穴を掘り、地質を調べている段階です。作業風景は定期的に公開されていますが、基本的に見学者は見学専用の建物へ。研究棟の隣りに建てられている見学用の施設ゆめ地創館でどのようにして埋めるのかが展示されています。
見学棟に入り、まずは地下へ降ります。このVT500エレベーターで500mの地下へバーチャルトリップ。
友人の「教授」もマジでだまされた非常に出来良いこのエレベーターは実際の高さ5mを2分でゆっくりと降りていくことで500m降りたように感じさせてくれる演出がされてます。私も事前情報無かったら騙されたかも。世界で一番遅いエレベーターでしょうね。
5m(感覚的には500m)降りると超深地のコアサンプルの展示があります。瑞浪というのは岐阜県にある幌延と同じ地層処分研究所です。
瑞浪が結晶質岩、幌延は堆積質岩。結晶質岩が固い地盤で堆積質岩が柔らかい地盤となります。フィンランドの処分場は結晶質岩でガチガチの地層とのことですが、柔らかい堆積質岩の地層でも処分は可能、というかそういう技術を研究する施設ということになります。
ちょっとホラーな感じで現在の研究の進み具合が書いてあります。まだ140mまでしか掘っていないんですね。国の指針では300m以上の深度に処分ということになっております。
地層処分とリンクしている再処理。一度使った核燃料を六ヶ所村の施設で再処理してまた使えるようにすると一度使った核燃料よりもより高レベルな放射性廃棄物が発生します。そのかわり、サイズは10分1くらいに小さくなります。どっちにしても高レベル放射性廃棄物なので地層処分しないといけないわけで、だったらサイズが小さくなる方がいいのではというのも再処理の理屈ではありますが、再処理した後のもう一度使う燃料のMOX燃料は基本的には高速増殖炉用でそちらは未だに開発の目処がたっておらず、一般的な軽水炉で使うプルサーマル(plutonium thermal use)は結局サイクル出来ないのでメリットが薄くなります。なお再処理後の高レベル放射性廃棄物の処理はガラス固化という方法で行いますが、使用済み核燃料のガラス固化処理より難しく、試験を繰り返しているものの未だに日本国内では技術が確立できません。
入館はもちろん無料のこの施設。他の核関連施設の見学施設と同じように無駄に豪華、無駄に職員過多です。
一番の見所は実際に地層処分に使用するステンレス製のキャニスター、それを覆う炭素鋼オーバーバック、さらに粘土質の緩衝材の実物。
正直圧巻の大きさです。写真だとなかなか伝わらないと思いますが、これが1本で最終的に4万以上の本数を埋めると思うと気が遠くなります。地層処分は3兆円かかるといわれていますが、それだと1本7500万円の計算です。でももっとかかるんじゃ無いかと思うほどの大きさでした。緩衝材を含めて横幅がだいたい2mちょい、高さが3mちょいくらいでしょうか。
驚くのは炭素鋼オーバーパックの厚さです。19cmです。これ、むくですから死ぬほど重いです。これだけで6tあります。ただ、ここまでしても安全に処理できるとは確約できず、仮に問題が無かったとしても最終的に安全になるのは10万年という人類存続の可能性すら疑わしい年月が必要になるわけです。
日本に原子力の灯がともってから約半世紀。50年間経っても使った後の処理に結論が出ていない。
福島の事故があったために現在日本国内には反原発のムードがあり、デモもさかんに原発廃止を訴えています。ただ、経済産業省の職員が言っていましたが、こうしたデモは時間が経ち、政権が変わり、冬になるとだんだんと参加者も減って結局は元に戻ってしまう。
そのため、今すぐ必要な事は現状を理解した上で最終処分どうすんのか問題について議論を「わかっちゃいるけどやめられない」から「でもやるんだよ」へ転換することだと思います。この問題にきちんと結論を出す事が出来なければ、まだ今後原子力利用を止めるのか続けるのかについての議論することは出来ないと思います。
でないとこの景色を見た人は「ああこんな何にも無いところが日本にあるのか。ここなら人も居ないし大丈夫だな」と思い、結局ここが処分場になってしまう可能性が高いのではないでしょうか。
これだけ何にも無いところに50mの展望タワーをわざわざ建設した意味を深く考えてしまう、そんな景色でした。
センターについては下記のサイトへ。
http://www.jaea.go.jp/04/horonobe/prsite/
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 幌延深地層研究センター
http://www.rwmc.or.jp/institution/project/