松尾スズキ監督・クワイエットルームにようこそ


いやあ、また傑作じゃないですか。恐れ入谷の鬼子母神ですよ。
松尾スズキ監督は「恋の門」に衝撃を受けて以来、次回作を楽しみにしていましたが、2作連続でこの完成度。私は演劇には疎いため、演劇界における松尾スズキを知っている人にすれば「なにをいまさら」なんでしょうけれども、驚き。凡百の薄めな日本映画が作られようとこんな才能を持った人がやっぱりいるじゃんってことで日本映画に自信を持てる。そんな存在でしょう。


まず、脚本。もの凄く重いし面白い。
キャラクター設計、素晴らしい記号化のオリジナリティ。
キャスト。平岩紙を発見する。まさに紙のようにアルビノ
台詞。次代の糸井重里のような、切れ味。


重さと軽さが細部に至るまで計算されていて観ていて破綻がない。最後まで後引く重さがあるけれど、強引に迎える爽快感にゾクゾクしながら、あれこれと語りたくなる。そんな映画。
そして、これは女性が観るべき映画。感覚的に女性の方がより深く感情を共有できるんじゃないかな?というよりも松尾スズキは現代の日本女性を深く描ける希有な男性監督でしょう。


テーマは「忙しい女性の再生の場」と言われているけれど自分はそうは思わなかったな。


あり得ない行動もなぜだか腑に落ちてしまう「奇妙な笑いの新しさ」と人生における日々の事柄の「面白さと面白くなさ」を考えてしまう。「ま、いろいろあったけどやっぱり人生は面白くなければ。積極的に面白く感じてやろう」というのが最後のシーンにドバッと出ている気がして。私自身にその葛藤があるだけにね。その点では「自分の面白さに気がついていない」という「腑抜けども悲しみの愛を見せろ」のテーマとも通じるものがあったりして。やはり今の空気を敏感に感じているのかな、と思う。21世紀の「ええじゃないか」というような感覚。そう思うとちょっと怖い。


事前に知識を全く持たずに観ていただきたい。とりあえず今年観た数十本のなかでは一番。あ、タランティーノの「デスプルーフ」も良かったけど。


↓音が出るので注意。
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写真はなんとなくクワイエットルームへの入り口っぽいものをチョイス。