光速を超えるニュートリノ発見?のバックグラウンド


23日にCERNOPERAチームから発表された光速を超えるニュートリノが確認されたというスーパー大ニュース。日本ではコレの第一報を流したのはGoogleで調べるとGizmodoというのも驚きでしたが、コレが本当だとすればいろいろあった2011年最大のニュースになるんでしょう。どういう背景で発表されたのかきちんと分かる記事があまり無いので昔から関心はあるけど完全素人な自分なりに調べて見ました。


とりあえずプレスリリースを読みたい!という方はこちらへどうぞ。プレスリリースの日本語版があります。
http://flab.phys.nagoya-u.ac.jp/2011/


まずCNNから引用。コレが一番まとまっていたのでここから分からないところを調べてみましょう。

(CNN) スイスにある欧州合同原子核研究機関(CERN)は23日、素粒子ニュートリノが光より速く飛んだとする「Opera実験」の結果を発表した。これが事実なら、光より速いものはないとするアインシュタイン相対性理論を覆す発見で、現代物理学の根底を揺るがす可能性がある。

実験に携わる研究者グループによると、実験は1万5000個以上のニュートリノを使い、730キロ離れたCERNとイタリアのグランサッソ研究所の間の地中で粒子加速器を用いて実施。ニュートリノが飛んだ距離と時間などを10億分の1秒単位まで厳密に計算した結果、光より速かったことが判明したという。

Opera実験の報道担当者は、発見に驚き、衝撃を受けたと指摘しながらも、あらゆる体系的な疑問点などを全面的かつ長期に調べた結果、光より速く飛んだと受け止める以外、説明出来ない結論に達したと述べた。

実験に従事する研究者は150人前後。今後も研究を続けるが、世界の科学界に今回の実験結果を公開し、その正しさを肯定もしくは否定するかもしれない新たなアイデアや実験方法を募りたいとしている。CERNの責任者は、信じられないような科学的な発見をした場合は独立した審査が必要とし、実験結果の全面公開に踏み切った今回の措置を評価している。

英オックスフォード大学のハーニュー素粒子物理学教授は、今回の実験結果について測定の正しさが証明されれば、極めて驚くべき発見と指摘。その上で、ニュートリノの実験は極めて難しく、第3者が今回の成果の正当性を証明するのは困難かもしれないとも説明した。

Operaのような実験が出来る世界の加速器施設にはこのほか、各国が参加してT2Kプロジェクトを進めている日本のJーParcや米イリノイ州にあるフェルミ研究所がある。

ニュートリノには3種類あり、別の種類に変化する現象も解明されている。


・『実験に携わる研究者グループ』
これは11カ国、30機関が参加するグループ。グループ名はOPERA。結論を言えば名古屋大学理学部理学研究科基本粒子研究室(F研)が中心的役割を果たしているように感じます。日本からは東邦大学愛知教育大学神戸大学名古屋大学宇都宮大学が参加してます。こちらがOPERAのWEBサイト。
http://operaweb.lngs.infn.it/?lang=en


・『実験は1万5000個以上のニュートリノを使い』とは?
元々私が知っているニュートリノを使った実験といえばスーパーカミオカンデで人工ニュートリノを観測する実験です。これはつくばの高エネルギー研究所から神岡のスーパーカミオカンデニュートリノを発射し、反応を見るというもの。この際に使われているニュートリノは約1兆個でそれを2.2秒に1回、100万分の1秒のパルスとして神岡に向け発射。そのうちスーパーカミオカンデを通るのは約100万個で、さらにそのほとんどは、スーパーカミオカンデをすり抜けてしまい、反応を起こして観測されるのは、2日に1個程度。なので、1万5000個以上というのはどこに当てはまるのかわかりません。


・『730キロ離れたCERNとイタリアのグランサッソ研究所の間の地中で粒子加速器を用いて実施』
実験方法としては上述の方法と同じだろうと思っておりましたが、調べると似ていますが異なります。まずCERNで使っている粒子加速器ですが、これは最近話題になった大型ハドロン衝突型加速器LHCとは別の施設です。調べるとスーパープロトンシンクロトロンとなっているので日本のつくばの高エネルギー研究所の陽子シンクロトロンと同じものでしょう。
というわけで日本に置き換えるとCERNが高エネルギー研究所で、イタリアのグランサッソ研究所がスーパーカミオカンデに当たる施設になるのですが、グランサッソ(余談ですが昔ムッソリーニが幽閉されてドイツ軍がシュトルヒで救出したあそこです)の施設はスーパーカミオカンデニュートリノ検出方法が異なります。


スーパーカミオカンデでは超純水が詰まった壺の中にニュートリノが来るとほんのちょっと光るため、その光を検出する装置で観測する施設でしたが、グランサッソのは原子核乾板を使うもの。これは写真フイルムみたいなもので、鉛でサンドイッチにされた原子核乾板はニュートリノが板に当たると原子核が反応を起こすため、後ろの観測装置で来たニュートリノを探知して通過した位置を逆算して板を現像すると飛跡が写っている(残っている)という観測装置。名古屋大学では現像を半分担当しており、このOPERAの中でも重要な乾板の高速現像システム、乾板の再生技術開発を長年行なっており正に中心的な役割を担っているようです。他のブログではこの件に関してCNN他のメディアでは日本の名前は出てこないため国内のメディアは日本の業績を持ち上げ過ぎではという意見がありましたが、乾板製造にも関わっている富士フイルムとともに日本が中心的役割をしているというのはかなり正しい認識だと思います。


・『ニュートリノが飛んだ距離と時間などを10億分の1秒単位まで厳密に計算した結果』
この部分については日本のK2KやT2Kでも人工的に作ったニュートリノ以外のバックグラウンドニュートリノの混入の可能性を排除するために打ち出す側と受ける側の時間合わせは非常に重要なので厳密に行われているようです。
つまり、この発見、もし本当だった場合、日本の実験でもわかったことかもしれません。事実アメリカのフェルミ研究所での似たような実験でも若干光速より早めに出ていたけど誤差の範囲内ではという意見があったようです。


・『ニュートリノには3種類あり、別の種類に変化する現象も解明されている。 』
どちらかといえばこちらの解明のために実験を行なっていてたまたまこういう結果が副次的に出てきたというのが真相だと思います。
とにかく今追試が出来る研究施設は日本のスーパーカミオカンデフェルミ研究所だと思うので、結果を楽しみに待ちたいと思います。なおスーパーカミオカンデニュートリノを撃ち出す東海村のJ-PARCは現在地震の被害を受けて復旧作業中なので早く直ってスーパーカミオカンデに正確にぶち込めるようになってほしいですね。


そして今は26日10時30分からの名古屋大学OPERA実験 フォーマルセミナーでの説明を待ちたいと思います。


以下非常にわかりやすかったリンク集


名古屋大学理学研究科・素粒子宇宙物理系 基本粒子研究室
http://flab.phys.nagoya-u.ac.jp/2011/archives/158.html
OPERA日本語
http://flab.phys.nagoya-u.ac.jp/2011/experiment/opera/
KEKによる今回の実験の概要説明
http://legacy.kek.jp/newskek/2010/mayjun/OPERA.html
高エネルギー研究所、スーパーカミオカンデを使ったK2K実験について
http://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/sk/physics/k2k.html
原子核乾板のリフレッシュ技術詳細
http://www.tech.sci.nagoya-u.ac.jp/machine/job/opera-2.html#tecno



以上、本当に素人なので推察している部分の内容は信頼性がありません。ぜひリンク先でこの発見の背景も含めてご確認いただければと思います。また、元々の実験テーマであるニュートリノ振動の解明についてもとても面白い研究だと思いますので、リンクをたどってみてください。