2021年の中銀カプセルタワービル
1972年竣工。黒川紀章の代表作といって良いでしょう。銀座8丁目にあるビルです。今回このビルの中の見学をする機会がありましたので、写真多めでまとめておこうと思います。
- 中銀カプセルタワービルとは
このビルの特徴は長方形の箱が140個、2棟のタワーにらせん状に取り付けられていることです。
「住宅の質が広さであった時代は過ぎた」と高らかに宣言するパンフレットの通り、1部屋10平方メートル、4.5畳の洋室とユニットバスからなる機能性を売る分譲マンションとして誕生しました。
カプセルは取り外しが可能で25年でカプセルを交換することを想定したようですが、分譲住宅として販売したため、住民の意見がまとまらないこと、交換のためには上から順繰りに外す必要があり、真ん中のカプセルの人が交換したいといっても対応出来ないので今まで一度も交換されていません。
当初は事業主、弁護士、医者、カメラマン、芸者、銀座のママなどがセカンドオフィス、セカンドハウスとして購入したそうです。50年経って現在はどんな人が住んでいるのかというと芸術家、音楽家などクリエイターが多いそうです。実際に住んでいるのは10名くらい。確かに夜、電気が付いているカプセルは6ー7個くらいしかありません。それ以外のカプセルは事務所や倉庫として使われてたり、なにも使われていなかったりで、正直稼働率としては低いといわざるを得ない状態です。
- 中銀カプセルタワーでの生活
個が強調され、コロナで人と人との距離を取る必要がある中では最適な住居、仕事場ともいえます。全国各地、今では世界中に広がったカプセルホテルの先駆けとして、タイニーハウスやコンテナ住宅の元祖として、唯一無二の姿を今に示しているといえるのではないでしょうか。
パンフレットにも「情報化社会においてはオフィスに限らず家庭でも通勤中の国電の中でも仕事場の延長になってしまう。このような中で重要な事は自分らしい個人の空間を確保することではないだろうか。」とあります。
こうした住居が増えると交流の場もオンライン化していくのかと思いきや、現在住んでいる方達は、誰かがカレーを作ったらみんな食べに来るなど、住んでいる人同士での交流が頻繁にあるそうです。
キッチンがない、お湯が出ない、雨漏りするなど快適な生活には困難な環境になっているものの同じような価値観を共有する人達が集まり、共に生活する場になっているのは現代版の長屋のようで非常に興味深いなと思いました。
- 中銀カプセルタワーの今後
カプセルの アスベスト問題やカプセルを取り付けてある建物自体の老朽化問題もあり、以前より建て替えかカプセル交換も含む保存かで住民(カプセルオーナー)の意見は分かれていました。近年はその価値を認め、保存派が多くなっていたこともあり、建て替えられることもなく、長い年月が経っておりましたが、今年コロナ禍の影響もあったのか、ついにデベロッパーへの売却が決まったそうです。ただ、未だに建て替えられる事が正式に決定したわけでは無く、不透明とのこと。
また、建て替えになった場合も今あるカプセルを外し、世界中に拡散させて保存する案などもあるそうです。熟したカプセルが実となって飛んでいき、新たな地で根を張る事で、メタボリズム建築を体現するというのもロマンがあると思います。
いずれにしても今後出されるであろう計画で今のビルがどのような形で活かされるのか、そっと見守っていきたいと思います。
では撮影した写真を見ていきましょう。今回広角は全て白黒で撮影しました。カラーと白黒が入り乱れてしまいますが、ご了承下さいね。
カプセルの横を通る東京高速道路株式会社線下りからの撮影。撮影場所としてはおそらくベストなのですが、一々面倒なので、ここから撮影された写真はそれほど多くないかもしれません。この写真の一番下が2階の屋上です。
窓を作るためにカプセルの壁をくりぬいちゃったカプセルもあります。黒川紀章の写真が貼ってある窓もありますね。怖いよ。
二階の屋上に室外機がたくさんあり、カプセルから管が垂れ下がっています。これは全館空調がずっと故障しているための苦肉の策で、本来の姿ではありませんが、空調がないと夏は暑く、冬は周りと一切接さないため寒いのでエアコンの設置は黙認されているそうです。室外機の姿がミニカプセルみたいで可愛いです。
上から垂れ下がっているのはカプセルから剥離した部品などが通行人に当たらないためのカバーネット。正直、垂れ下がる管とともに痛々しいですが、もはやクーロン城的な凄みが出て来ている気もします。
真下から見たカプセル。窓は開きません。ネットの感じが良く分かります。換気扇を後付けしたような魔改造カプセルもありますね・・・。
二階部分に繋がるエアコンの管です。
ネットの一番下はこのようになっています。
こちら左側がカプセルタワーの後ろの建物。カプセルタワーの2階部分とくっついております。この後ろのビルは完全に使われていないので、カプセルタワーとの一体開発を検討しているそうです。かなりの面積になりそうですよね。
トップの写真を地上から撮るとこのようになります。2階部分にタワーが2棟載っかっているような外観です。
3面が道路に囲まれているので、撮影はしやすいですね。
1階のピロティ部分。
以前はここにモデルカプセルが展示されていました。
六角形の花壇など、ピロティ部分も楽しいディティールが溢れています。
カフセルタワーヒル。直す気は無いそうです。
さて、入ってみましょう。一階は撮影禁止で、ロビーがあり、管理人さんが常駐しています。右のA棟と左のB棟に分かれています。A棟が13階、B棟が11階建てです。
まずはエレベーターで一番上に向かいます。
B棟11階につきました。螺旋階段の外周部分にカプセルがくっついており、扉から入れるようになっている構造。勿論真ん中はエレベーターです。扉の前のバケツはなんでしょうか。雨漏り用の受けだそうです。これがほとんどの扉の前にあるのが特徴。
B棟一番上12階の渡り廊下部分。下がカプセルです。
特徴的な棟の部分を渡り廊下から眺めた写真。
年季の入った蛍光灯。
塗装とサビで何ともいえない良い色になっています。
屋上からカプセルとカプセルの間を見下ろすと、一番下の2階まで見えます。超怖いです。左側には室外機。一番上のカプセルだけの特権ですかね。
階段室の照明。デザインしてます。
12階のA棟からB棟への渡り廊下。他に9階、6階に渡り廊下があります。
A棟は赤、B棟は青。
この感じが下まで続いています。
各階にはそれぞれ8個ないし7個のカプセルがあります。
1階ごとにカプセルが付いているワケではなく、芦原義信のソニービルのように花びら状にゆっくり下がっていくステップフロア形式になっています。これ、中に入るまで知りませんでした。
6階の渡り廊下部分。ここも室外機の置き場になっています。
上を見るとカプセルの下部がもろ見えです。
補修の跡がくっきりと。
横向きに取り付けられたカプセルはこのように目隠しが取り付けられています。これも表からは見えないので、発見でした。
同じように6階渡り廊下から下を見たところ。
こちらのグラフィックが竣工当時のモノだそうです。
あまり改修されていないためか階段室は年季が入っている状態です。
ではお待ちかね、カプセルの中に入ってみます。
じゃーん!
今回見学したのは竣工当時のカプセルをなるべくそのままの形で補修したモノだそうです。
丸窓は外には開きませんが、二重窓になっています。竣工当時は扇形の360度ブラインドが付いていて、内側の窓を開けてブラインドを回して目隠しできるようになっていたそうです。今は壊れたためか取り外されてしまっていました。
ユニットバス部分。
ビジネスホテルのユニットバスを一回り小さくした、そのくらいのサイズ感です。サイズはカプセルを製造したところからカプセルごと輸送するため、輸送可能なサイズを元に設計したため、このサイズになったそうです。
丸い鏡がイイ感じです。
こちらがトイレ。
お湯は出ませんが、水は出ます。
よく見かけるオープンリールのテープデッキ。スーパーデラックスというカプセルタイプについて来ました。
折り込み型のデスク。これ、今までどんな素材なんだろうと思っていましたが、普通に木製に白塗装。
収納も結構あります。こうした家具の製作は船舶などの内装を手がける会社に依頼したそうです。狭いところに効率的に収納する技術は船舶用の内装に経験あるところならでは。金具などにその雰囲気が残っています。軽さもポイントですよね。
ラジオ、デジタル時計、電話。いやホント格好良く収まっています。こういうところ、ミニマムでコクピット感覚で必要な装備が集約されているところが何より魅力的。それが50年経ってめっちゃレトロになっている、というところが今若い人達にこの建築がウケている要因なのでしょう。
さて今回、参加した見学ツアーはこちら。定期的に見学ツアーを開催してくれています。
聞くところによると、今住んでいる人も女性が多く、見学ツアーに参加される人の男女比は1対4で圧倒的に女性が多いそうです。建築関係の人は意外に少なく、アート系の方からの支持が熱いということでした。
カプセルの意匠、内装のレトロフューチャー感覚、ミニマムな住環境というのがアート好きな女性に人気というのも頷けます。
今後どうなるのかは分かりませんが、こうした面白い建築が今後も生まれることを願ってやみません。私もカプセルに住みたいぜ!
実際に泊まりたい!という場合は黒川紀章の別荘として建てられたカプセル建築が軽井沢にあり、6月から宿泊出来るようになるそうです。
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