コンピュータと人の争い〜将棋編〜電王戦



昨日の電王戦で米長邦男将棋連盟会長がコンピュータソフト「ボンクラーズ」に敗れた。持ち時間は3時間。正直、まだ大丈夫か?という期待もありました。ソフトの名前もボンクラーズっていうかなりナメた名前だったので。しかし結果は会長の敗戦。現在の会長の実力は恐らくプロの中(4段以上)では下位といわれているけど、少なくともプロを負かせる力はある、というわけ。


まさにコンピュータが人間の能力を超える象徴例であり、将来的なコンピューティングの利用方法を考えるに、これはあと20年経ったらどうなるのか、楽しみでならない。


ただ、これは人間が自分たちが作った機械に負ける、という若干屈辱的な部分も大いに含まれてます。かなり近い将来、渡辺竜王羽生善治がコンピュータに負けるという事態が現実のものになってきているわけでそうした際にじゃあ将棋を人間が争い続ける意味はなんなのか、という根源的な問題を想起することにもなります。


では将棋よりもだいぶ先に世界チャンピオンが敗れたチェスはいまどうなっているのか。97年にチェスの世界チャンピオン ガルリ・カスパロフ氏に6番勝負で2勝1敗3引き分けし、僅差で勝利したディープブルーのその後はどうなっているのか調べてみると・・・するとまあ変わらず人間同士での争いは続いていて安心したが、すでに携帯(HTCのスマートフォン)に搭載されたソフトにグランドマスタークラスが負けるレベルになっているという。一般向けのPC上で動くソフトウェアでは平手では勝利することは難しく、すでにポーンを一つ落としてどうか、というところまでいっている。


おそらく近い将来、このまま順調に研究が続けばこのような状況に将棋も間違いなくなるわけで、なんとはない寂しさを感じずにはいられません。が、コンピューティングの未来を考えると発想を転換しないといけないのかなと。つまり人間の思考よりもコンピュータの方が正確で正しい時代に人間はどうすればいいのか。これへの一つの回答がカスパロフ氏の提案するアドバンスチェスに現れている気がします。


これは、人間同士の戦いで双方ともにコンピュータが出した手を候補として利用するというもの。つまりレベルは世界チャンピオンクラス同士の対戦を人間がソフトの助けを借りて行う。まあ、これがうまくいくのかは難しいのかもしれないけれど、とにかくゲーム上は人間よりも優れているコンピュータと争うということよりも今後はそれをどう利用していくか、もう時代はすぐそこまで来ている気がします。というかどっちかというとコンピュータを使っての凄い戦いを見てみたい気もします。ちょっと怖い気もするが。


では将来今のプロ棋士はどうなっているのか。これは難しい問題。チェスの方はプロチェス界が崩壊しているわけでも無いし、みんなが見たいのは人間の戦いなので将来的にも意味合いは変わってしまうのは仕方ないにしても、人気は続いていくのでは無いでしょう。ただ、これには少し自信がありません。私自身、プロ棋士を人間的に尊敬している部分が大きいですからね。今のままいって欲しいなとは思いますけど、将棋というゲームに対する理解度、勝負という点ではコンピュータの方が上回るのは目に見えているわけで、今のような注目を集めるのは難しいのかもしれません。


そして将棋に限っていえば今はコンピュータと人間の差がまだ拮抗している状況であるので、長い人類の歴史からしたらごくわずかな期間となるであろう現在の奇跡的な時間を楽しんだ方が良いと思います。あと100年したら勝てる見込みは無いでしょう。人の自尊心を大いに傷つけるものがあるからこそ、このイベントが人の関心を惹くわけで、この興奮が味わえるのもたぶん今だけ、なのでしょう。