やっぱり面白かった『桐島部活やめるってよ』


昨年、周りで一番盛り上がっていた映画『桐島部活やめるってよ』。
iTunesでレンタルが始まっていましたので、早速観ました!
結果、やっぱり面白かったです『桐島』。
ただ、モテキより人が入ったかといえばそうでも無いみたいなので、『桐島』について
ここで言わせて頂きたい、すぐ見て欲しい。そして観たら語り合いたいと。


『桐島』が面白かったというのは単純にストーリーを追っていくだけではなく、
色んな解釈が可能で深読みしようと思えばいくらでも出来るところです。
ある構造のおかげで自分の中での『桐島』の捉え方が人それぞれ無限に存在出来る。


また舞台が地域性を排除した高校なので、多くの人が経験している空間、時間を追体験して、
周りの人とあの頃どんなんだったという会話に繋げられる作品です。


とにかくかすみ役の橋本愛と実果役の子がいい感じなのでそこだけでも観る価値がある!




ここからちょっと内容も記載しますので、出来れば見てからお読み下さい。



■ARRIRAW(ALEXA Plus)で撮られたシネスコ画面の良さ

まず初めに、この映画、デジタルで撮られてます。解像度でいうと2Kでシネスコです。
劇中の前田君はフィルムで撮影することに対するこだわりを持っていたので、アレッ?と
思うかもしれません。
でも、現場の感覚としては、フィルムでもデジタルでも変わらないというところにいっているのでしょう。


このデジタルとフィルムについて、ちょっとだけ脱線させてください。
映画より約8年くらい早く、商業写真のほとんどはデジタルになりました。それについて悲しむ人や
未だにフィルムの方がいいという人も居ます。


こうした声に対して以前大林宣彦監督が「映画という文化は科学技術の発達ととも歩んできたものなので、
その流れに逆らうことは映画的ではない」といっていてこれが割とスッと入ってきました。
また『観客はフィルムかデジタルかというところじゃなくて面白いかどうかで観てるんだから、
デジタルでもフィルムでもどちらでもいいから予算内で使える最高のモノを使え』
という意見がたぶん王道だと思います。
なので桐島もデジタルで撮影され、結果それがこの時代の映画として大正解だったんじゃ無いかなと思います。

■一番好きな屋上でのある演出

さて、そんな撮影に関することなのですが、私がこの映画の演出で一番気に入っているのは
屋上での決闘シーンのシネスコ演出です。


前田君の機転でドキュメンタリータッチで撮影が始まる屋上のゾンビシーン。
下っ端の人間がゾンビに食い殺されるのは8mmの小さい画面で撮影されるものの、
『憧れ』かつ『憎しみ』の対象になったヒロインかすみの頸動脈を噛み切って殺すという
エクスタシーが頂点に達するシーンは一気にデジタル高画質かつ大画面のシネスコになる!!!
なんと前田君の気持ちをうまく表現しているんだ・・・!!


つまり下っ端に対してはフィルムの力だなんだ言っても、かすみの時はなりふり構わないで
高画質のデジタルシネスコの画を!!という情動なのです!WOW!


前田君はあのゾンビ映画をフィルムで撮ることで他のお洒落な映画を撮っている映画部とは違うんだ!
フィルムには見えない力があるんだ!と自己防御しているんだろうなと思います。
部員も少ない、学内での地位も低い弱小映画部のコンプレックスがあのフィルム撮影に濃縮されているように思いました。
というか私もちょくちょくそういう思考をしがちなのでビンビン響いてくるんですよ・・・


そんなわけで『桐島』はこのシーンだけ切り取ってみてもフィルムにこだわる前田君の気持ちに反して、
当然だろといわんばかりにデジタルで撮影することで、何ともいえない切なさを突きつけてしまうのです。
(たまたまかもしれませんが・・・)


だからこそ小説版では映画甲子園で特別賞を取った映画部が映画版では1次選考突破したものの
2次選考で落とされたと格下げされたのでしょう。ああ・・・憎い演出!この精緻な設定もこの映画の醍醐味でしょう。


ちなみに前田君の使っているシングル8は現在1本現像料込みで3200円。3200円でたった
3分20秒しか撮影できません。映画秘宝を買ったり、映画館で鉄男を観たりする前田君ですから
多くの本数は使えないはずです。

■画面構成、色

絵的な構成、いわゆるレイアウトもとても良く出来ていて驚かされました。
特に作品中盤の女子4人がベンチに座って話す女子の怖さを実感できるシーン。
シネスコの横長画面を最大限に生かし、誰も目を合わせずに話しているにも関わらず全員の
表情が一つの画面内に上手く収まってます。超かっこいい!


また映像のカラーですが、教室内を含め、何らかの圧力を感じさせるシーンではほぼ寒色系の
色温度低めでグレーディングされており、後半の夕日を受けるシーンとのギャップが凄くハッキリつけられています。
このおかげで放課後の学校の緩んだ空気みたいなものが感じられ、画でも成功していると思います。


わずかしかない夕日の時間内での撮影は大変だと思いますが、夕日の暖かみが寒色で支配された学校内からの
開放を感じさせてくれて、とても良かったです。

■登場人物みんなにフォローがある

この作品、一言でどういうお話かというと


『上から目線で見てたけど、実は下の奴らの方が覚悟決めて生きてる・・・
俺はどうしたらいいんだよ・・・but!! Life goes on!!!!!!』という話だと思うんです。


この部分については色んな人が様々な解釈をしてますので、置いておいて、2時間弱の映画にしては
結構多くの登場人物が出てくる映画なのに1人を除いてどの登場人物も実はきちんと
フォローされているというのが凄いと思うのです。


例えば久保。他人の気持ちが全く分からないようなキャラクターとして描かれているバレー部久保。
久保は感想文の中で良く悪者になっているのですが、彼は劇中2回も『課題の提出』に追われている姿が
描かれています。ただの筋肉バカ、暴力男ではなく、一応の社会性を見せているところにパターン化された
悪者には無い、高校性のリアルさがあるような気がします。

■問題点であり、魅力でもある『桐島』という存在の面白さ

この映画最大の疑問は桐島の彼女、りさです。
桐島はかっこよくてスポーツも勉強も出来る万能タイプとして描かれていますが、桐島の彼女の『りさ』は可愛いだけ。
スポーツも勉強も出来ず、可愛いといってもエロ可愛い方向なので万人受けする上質な可愛さではありません。
りさは校内一の美人であっても社会性が乏しく、桐島以外とは人間関係も希薄です。
正直、桐島と付き合っていることが彼女の生きる意味そのものだったように描かれてます。


つまりこのキャラクターは全然桐島と釣り合っていないのです。
桐島と釣り合わせるなら『彼氏彼女の事情』の宮沢雪野のような、可愛くて勉強も出来てスポーツも出来る
生徒会長の女子じゃないと。
アメリカでいえば勉強も出来ちゃうようなスーパーチアリーダーじゃないと釣り合わないでしょう。


桐島は他の感想文を読んでいると存在が神とかキリストに例えられがちなんですが、
正直、ひろきと同じレベルの男だったんじゃ無いかと思うんです。


神だったら可愛いだけで自分とは釣り合わない子を彼女にしないでしょう。
もっというと桐島は自分よりも上の存在、つまり部活のスターでさらに将来への夢もある完全体への憧れを
ずっと持っていたんじゃ無いでしょうか。
だからこそ人間らしくに見えて、桐島もそれを悟って現状から脱出したように思うのです。


そんな中途半端な桐島の姿が垣間見えるからこそ、この映画は世の中の多くの人から共感を得ているんじゃ無いでしょうか。


でも、桐島の彼女りさは彼氏の桐島が居なくなって自分の存在理由が無くなった事に気がついて発狂してしまいます。
これは救いが無いよね。私だったら桐島の彼女りさはこんな女性像にしたいです。


−小学校の頃、クラスでは生き物係でこれといって特徴無かった女子、りさ。
あるきっかけで隣のクラスの桐島に憧れるものの、転校。
中学で桐島に見合うようになるため努力し、イケてない下位からイケている上位へ。
桐島と同じ高校に受かり、計算通り交際開始する。勉強もスポーツも出来て彼氏は桐島だ!YATTA!
しかしその桐島がある日突然消えてしまう。一体何故!?喪失感と恐怖から発狂するりさ・・・


『新説:桐島部活やめたってよ』


どうすか???(^^;)

■最後にもう一回言いたい

とにかくね、橋本愛と実果がいいんです。
綺麗な女優を撮った映画ではどのシーンが一番良く撮れているかだいたい分かりますが、この映画では
何個か候補が挙がるものの全部良くて絞れない!


この2人がめちゃ綺麗に撮れているというだけでこの映画、オススメです!


ちょっと話が真面目になっちゃったので最後にこちらのお気に入りの動画を。
前田君たちが第一次審査を突破した映画甲子園、桐島予告編コンクール関東地区代表の作品です。

アロハ桐島の抜けた感じが最高!
こんな軽そうなヤツのために長々と書いてしまったのかよ!!!!ガビーン